訪問看護業界は、高齢化社会の進展により、在宅医療ニーズが急速に拡大しています。
そんな中で訪問看護事業は、成長市場として注目を集め、事業拡大や事業承継を目的としたM&Aが活発化しています。
しかし、実際に事業譲渡や売却を検討する際には、適正な価格相場の把握や手続きの複雑さに直面することも少なくありません。
本記事では、訪問看護業界におけるM&Aの最新動向から、事業譲渡・売却のメリット、具体的な価格相場、さらには成功事例まで詳しく解説します。
これから会社売却や事業承継を考えている経営者の方、企業価値向上を目指す方にとって、実践的な知識と判断材料を得られる内容となっています。
訪問看護とは?

訪問看護とは、病気や障がいを抱える方が、住み慣れた自宅で安心して療養生活を送れるよう、看護師などの医療専門職が定期的に利用者宅を訪れてケアを提供するサービスです。
病院での入院治療とは異なり、在宅という生活の場で医療と介護の両面からサポートを行います。
訪問看護の主なサービス内容は、以下の通りです。
- 健康状態の観察と医師への報告
- 医療処置(点滴・注射・褥瘡処置など)
- 服薬管理と指導
- リハビリテーション
- 療養生活の相談・アドバイス
- ターミナルケア(終末期医療)
訪問看護サービスでは、介護保険または医療保険が適用され、医師の指示書に基づいて実施されます。
高齢化が進む日本において、病院のベッド数には限りがあり、在宅医療への需要が年々高まっています。
そのため、訪問看護ステーションの開設数も増加傾向にあり、M&Aや事業承継の対象としても注目されている分野です。
訪問看護ステーションの基本的なサービス内容
訪問看護ステーションが提供する主なサービスは、利用者の自宅で行う「医療処置」と「生活支援」です。
具体的には、医師の指示に基づく点滴や注射、褥瘡ケア、カテーテル管理などの医療行為から、服薬管理、リハビリテーション、ターミナルケアまで幅広い内容を含みます。
さらに、介護保険や医療保険を活用した在宅療養支援として、バイタルチェックや健康状態の観察、家族への介護指導なども重要な業務となっています。
また、24時間対応体制を整えているステーションか否かなど、対応可能時間にも違いがあります。
訪問看護のM&Aを検討する際には、提供しているサービス内容の質と範囲、対応時間が企業評価の重要な要素となります。
特に、医療依存度の高い利用者への対応能力や、24時間対応体制の有無、看護師の専門性などは、買収側が注目するポイントです。
会社譲渡・事業譲渡を考える経営者にとって、自社のサービス体制を整理し、強みを明確化することが売却価格の向上につながります。
訪問看護のM&Aを検討する際には、「利用者の獲得ルート」も買手側は必ず確認を行います。
訪問看護ステーションの設置基準と人員配置
訪問看護ステーションを開設・運営するには、介護保険法に基づく指定基準を満たす必要があります。
人員配置の基本要件としては、常勤換算で2.5人以上の看護職員(保健師・看護師・准看護師)の配置が義務付けられています。
また、管理者として常勤の看護師を1名配置することが求められます。
設備面では、事業運営に必要な事務室や相談スペース、感染症対策のための設備などが必要です。
訪問看護のM&Aを検討する際には、これらの基準を満たしているか、人員体制が安定しているかが企業価値の評価ポイントとなります。
特に看護師の確保が困難な地域では、既存の人材を引き継げることが大きなメリットとなり、買収価格にも影響します。
事業承継や売却を考える経営者にとって、設置基準の遵守状況は取引の成否を左右する重要な要素です。
なお、詳しいM&Aにおけるメリットやポイントは本記事の下部で説明していますので、最後までご覧ください。
訪問看護業界の市場動向とM&Aの背景

日本の高齢化率は年々上昇を続け、2025年には団塊の世代が75歳以上となる超高齢社会を迎えます。
この人口動態の変化により、在宅医療・在宅介護のニーズが急激に拡大しており、訪問看護ステーションの需要は右肩上がりで増加しています。
この結果、訪問看護業界の市場規模は年々拡大しており、2023年時点で約4,000億円規模に達し、今後も年平均10%程度の成長が見込まれています。
しかしその一方で、訪問看護事業者の多くは小規模な個人経営や法人が中心であり、後継者不足や人材確保の課題に直面しています。
こうした背景から、事業承継手段としてのM&Aや、大手企業による事業拡大を目的とした買収が活発化しており、業界再編の動きが加速しています。
特に、医療法人や介護事業大手による訪問看護ステーションの取得案件が増加傾向にあります。
訪問看護の市場規模と成長推移
日本全国の訪問看護ステーション数は、2015年の約8,000事業所から2023年には約14,000事業所を超えるまで急増しています。
この急成長の背景には、75歳以上の後期高齢者人口の増加と、国の在宅医療推進政策があります。
上記で説明した通り、市場規模も年々拡大しており、特に都市部では需要に対して供給が追いつかない状況が続いており、事業拡大の好機となっています。
こうした成長市場において、M&Aを活用した事業拡大や事業承継のニーズが高まっており、訪問看護事業の企業価値は年々上昇傾向にあります。
経営者にとっては、適切なタイミングでの事業売却や買収が、企業価値向上の重要な選択肢となっています。
事業所数の増加傾向と地域分布
年々増え続ける訪問看護ステーション数は、地域別では以下のような分布傾向が見られます。
| 地域例 | 傾向 | |
|---|---|---|
| 都市部 | 東京・大阪・名古屋圏や政令指定都市 | 事業所が多く競争が激化、大手による買収案件が活発 |
| 地方都市 | 県庁所在地及び30万人以上都市 | 中規模事業者が中心で、事業承継ニーズが高まっている |
| 過疎地域 | 上記以外 | 事業所不足が深刻で、新規参入や事業拡大の余地が大きい |
特に都市部では、事業所の乱立により収益性の格差が広がっており、経営効率化を目的としたM&Aが増加しています。
一方、地方では後継者不在による事業承継型M&Aのニーズが高く、地域医療を守るための買収案件も見られます。
訪問看護ステーションでM&Aが増加している理由

訪問看護ステーションにおけるM&A案件が急増している背景には、次のような複数の構造的要因が存在します。
これらの理由について、以下でそれぞれ詳しく説明していきます。
1. 高齢化社会による需要拡大
総務省の統計局によりますと、2025年9月時点の日本の65歳以上人口は総人口の約29.4%に達し、今後も増加が続きます。
医療・介護の現場では、「病院から在宅へ」の流れが政策的にも推進されており、訪問看護サービスへの需要は構造的に拡大しています。
この成長市場に参入したい大手企業や投資ファンドが、既存の訪問看護ステーションを買収するケースが増えています。
2. 経営者の高齢化と後継者不足
訪問看護ステーションの経営者の多くは、看護師資格を持つ個人や小規模法人です。
創業者の高齢化が進む一方で、後継者が見つからないケースが多く、事業承継の手段としてM&Aを選択する経営者が増加しています。
廃業を避け、従業員の雇用を守りながら事業を存続させる方法として、M&Aが注目されています。
3. スケールメリットの追求
訪問看護事業は、人材確保や管理コストの面である程度の規模が必要です。
複数のステーションを統合することで、人材採用の効率化、バックオフィス業務の集約、研修体制の充実などのスケールメリットが得られます。
大手事業者がM&Aで規模を拡大し、競争力を高める動きが活発化しています。
4. 医療・介護連携の強化ニーズ
地域包括ケアシステムの構築が進む中、医療機関や介護事業者が訪問看護機能を取り込むことで、シームレスなサービス提供体制を構築できます。
病院やクリニック、介護施設運営企業が、訪問看護ステーションを買収し、事業ポートフォリオを拡充するケースが増えています。
5. 収益性と成長性の高さ
訪問看護事業は、介護保険・医療保険の両方が適用され、安定した収益基盤の実現が可能です。
さらに、利益率も比較的高いことも、投資対象として魅力的なポイントです。
この収益性の高さが、投資ファンドや異業種企業からの買収ニーズを生み出しています。
6. 新規開設のハードルの高さ
訪問看護ステーションの新規開設には、看護師の確保、指定申請手続き、地域との関係構築など多くの課題があります。
ゼロから立ち上げるよりも、既存の事業を買収する方が時間とコストを大幅に削減できるため、M&Aが選択されています。
訪問看護ステーションにおけるM&Aの特徴

在宅医療サービスを提供する訪問看護事業は、他の医療・介護事業とは異なる独自のM&A特性を持っています。
その最大の特徴は、人材と地域ネットワークが事業価値の中核を占めることです。
看護師やリハビリ職員などの専門人材の確保状況、地域の医療機関・ケアマネジャーとの連携体制が、企業価値を大きく左右します。
また、介護保険・医療保険の指定事業者としての許認可が必要なため、買収後も事業継続性を維持できる体制構築が重要となります。
さらに、利用者との信頼関係が事業基盤となるため、M&A後のスムーズな引き継ぎと丁寧なコミュニケーションが成功の鍵を握ります。
地域密着型ビジネスという性質上、エリアごとの市場特性や競合状況も価格評価に影響を与える要素です。
訪問看護ステーションをM&A(事業譲渡・事業売却)するメリットと留意点

訪問看護事業の売却を検討する際、経営者が得られる利点は多岐にわたります。
その中でもM&Aをする最大のメリットは、後継者不在問題の解決と事業継続の実現です。
売却により創業者は適正な対価を得られ、同時にスタッフの雇用や利用者へのサービス提供を維持できます。
また、大手企業グループの傘下に入る場合、経営資源の強化や事業拡大の機会も生まれます。
一方で留意すべき点として、利用者との信頼関係の維持、スタッフの処遇変更への配慮、企業文化の違いによる摩擦などが挙げられます。
特に、訪問看護は対人サービスであるため、譲渡後の運営方針や理念の継承について、事前に十分な協議が必要です。
適切な買い手選定と丁寧なプロセス管理により、これらの課題を最小化することが成功の鍵となります。
以下では、譲渡側(売り手サイド)と譲受側(買収サイド)に分けて、それぞれの側面から見たM&Aのメリットと、M&Aをする際の留意点について詳しく解説します。
譲渡側(売り手)のメリット
訪問看護事業を売却する経営者側には、経営・財務・人材の各面で大きな利点があります。
<売り手側の主なメリット>
- 後継者不在問題の解決と事業の存続
- 創業者利益の確保と売却対価の獲得
- 従業員の雇用維持と処遇改善
- 個人保証・担保からの解放
- 譲受側(買い手)の経営資源活用による事業成長
- 利用者へのサービス継続と質の向上
このように事業承継の課題に直面している経営者にとって、M&Aは最も現実的な解決策となります。
特に、訪問看護ステーションでは、看護師の確保難や24時間対応の負担が大きく、経営者が高齢化しても後継者が見つからないケースが増えています。
売却により、創業者は事業価値に見合った対価を得ながら、スタッフの雇用と利用者へのケアを継続できます。
また財務面では、長年の経営で背負ってきた個人保証や担保提供から解放され、精神的・経済的な負担が軽減されます。
買い手が大手企業であれば、豊富な資金力や人材育成システム、ITインフラなどの経営資源を活用でき、事業のさらなる成長も期待できます。
譲受側(買い手)のメリット
買収する企業側にとって、訪問看護ステーションのM&A(買収)は、事業エリアの即座の拡大を実現できる点で大きな魅力があります。
ゼロから新規開設する場合と比較して、以下のような利点が得られます。
- 既存の利用者基盤と安定的な収益源の獲得
- 経験豊富な看護師や介護職員といった人材の確保
- 地域での認知度と信頼関係の継承
- 指定事業者としての許認可の承継
- 開設準備期間の大幅な短縮
特に訪問看護は人材確保が最大の課題であり、即戦力となる専門職を一度に獲得できる点は計り知れない価値があります。
また、地域包括ケアシステムにおける医療機関や介護事業所とのネットワークも同時に引き継げるため、スムーズな事業展開が可能となります。
さらに、複数の事業所を運営することでスケールメリットが生まれ、本部機能の効率化やノウハウの共有による経営基盤の強化も期待できます。
訪問看護ステーションのM&A(事業売却)をする際の留意点
事業売却を進める上で、最も重要なのは適切なタイミングと準備です。
利用者やスタッフへの説明方法、契約内容の精査、財務情報の整理など、事前に検討すべき項目は多岐にわたります。
特に注意すべき留意点は、以下の通りです。
- 利用者との契約関係の承継手続き
- スタッフの雇用継続と労務管理
- 介護保険事業所の指定更新や各種許認可の引継ぎ
- 医療機関との連携関係の維持
- 秘密保持契約の徹底と情報管理
また、売却価格の算定では、営業利益だけでなく利用者数や稼働率、地域シェア、スタッフの定着率なども評価要素となります。
専門家のアドバイスを受けながら、段階的に準備を進めることで、円滑な事業承継が実現できます。
訪問看護ステーションのM&A売却相場

訪問看護ステーションを売却する際、最も気になるのが「いくらで売れるのか」という価格の問題です。
一般的に、訪問看護事業の売却価格は年間営業利益の2~5倍程度が相場とされています。
ただし、この倍率は事業規模や収益性、スタッフの定着率、利用者数、地域性などによって大きく変動します。
例えば、安定した収益基盤を持ち、優秀な看護師が在籍している事業所は高い評価を受ける傾向にあります。
また、医療・介護報酬の改定動向や地域の高齢化率なども価格に影響を与える重要な要素です。
正確な企業価値を算定するには、財務状況だけでなく、事業の将来性や無形資産も含めた総合的な評価が必要となります。
M&A専門家による適切なバリュエーション(企業価値評価)を受けることで、適正価格での売却交渉が可能になります。
訪問看護ステーションの売却価格の算定方法
訪問看護ステーションを売却する際の価格は、主に3つの方法で算定されます。
一般的な価値算定では、以下の3つの手法が用いられます。
- インカムアプローチ:将来の収益力を基準に評価する方法(DCF法など)
- マーケットアプローチ:類似企業の取引事例や市場株価を参考にする方法
- コストアプローチ:純資産を基準に評価する方法(時価純資産法など)
最も一般的なのがコストアプローチ(時価純資産法)とインカムアプローチ(営業利益倍率法を組み合わせた方法)です。
時価純資産法では、貸借対照表上の純資産を時価に修正して企業価値を算出します。
営業利益倍率法は、営業利益に業界平均の倍率(通常2~5倍)を乗じて営業権(のれん代)を評価する手法です。
また、DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)という将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて算定する方法もあります。
実務では、これらの算定方法を複数組み合わせ、利用者数、訪問件数、診療報酬改定の影響、スタッフの定着率などの定性的要素も加味して、最終的な売却検討価格の「幅」が決定されます。
専門家による適正な評価が、円滑なM&A成立の鍵となります。
訪問看護ステーションの地域別の売却相場
訪問看護事業の売却価格は、事業所が所在する地域によって大きな差が生じます。
都市部では年間営業利益の3~5倍、地方では1~4倍程度が一般的な相場となっています。
地域別の特徴は以下の通りです。
| 地域別 | 特徴 | |
|---|---|---|
| 首都圏 | 東京・神奈川・埼玉・千葉 | 高齢者人口が多く需要が旺盛なため、売却価格は高値で推移。 |
| 大都市圏 | 大阪・名古屋・札幌・仙台・福岡 | 首都圏に次ぐ評価額で、安定した取引が行われている。 |
| 地方都市 | 県庁所在地かつ人口30万人以上の都市 | 高齢化率は高いものの人口減少の影響で、相場はやや控えめ。 |
| 過疎地域 | 上記以外 | 後継者不足が深刻で、事業承継目的のM&Aニーズが高い。 |
ただし、地方でも医療資源が不足している地域では、買い手からの需要が高く、予想以上の価格で売却できるケースもあります。
地域特性を理解した上で、適切な売却戦略を立てることが成功の鍵となります。
訪問看護ステーションの規模別の価格帯
訪問看護ステーションは、その事業規模によって、売却時の価格帯は大きく異なります。
| 規模 | 売却価格帯 | |
|---|---|---|
| 小規模事業所 | スタッフ5名未満、年商3,000万円以下 | 数百万円~2,000万円程度 |
| 中規模事業所 | スタッフ5〜10名、年商3,000万円〜1億円 | 1,000万円~5,000万円 |
| 大規模ステーション | スタッフ10名以上、年商1億円超 | 5,000万円以上 |
特に、複数拠点を展開している事業者や、特定エリアで高いシェアを持つ事業所は、より高い評価を受ける傾向にあります。
ただし、赤字経営や看護師の離職率が高い事業所は、規模に関わらず評価が下がる可能性があるため、売却を検討する際は経営状態の改善も視野に入れることが重要です。
訪問看護ステーションM&Aの売却手順とポイント

訪問看護ステーションの売却を成功させるには、明確なプロセスを理解しておくことが重要です。
次のようなM&Aの売却に向けた適切な手順を踏むことで、スムーズな事業承継と満足のいく条件での譲渡が実現できます。
- ステップ1:売却の検討と準備
- ステップ2:M&A仲介会社の選定
- ステップ3:企業価値評価(バリュエーション)
- ステップ4:買い手候補の選定
- ステップ5:基本合意書の締結
- ステップ6:デューデリジェンス(買収監査)
- ステップ7:最終契約の締結
- ステップ8:クロージング(引き渡し)
また、訪問看護ステーションのM&A売却プロセス全体では、おおむね8ヶ月から1年程度の期間を要することが一般的です。
これは、準備段階から基本合意まで3~6ヶ月、デューデリジェンスに1~2ヶ月、最終契約からクロージングまで1~3ヶ月程度が目安となります。
ただし、事業規模や買い手との交渉状況、必要な手続きの複雑さによって期間は前後します。
さらに、「準備段階」で従業員に情報を隠しながら必要書類を集めることになりますので、想定外の時間がかかることもあります。
スムーズな進行のためには、早期から専門家のサポートを受け、必要書類を整備しておくことが推奨されます。
事前準備と情報整理
訪問看護事業のM&Aを成功させるためには、売却前の綿密な準備が欠かせません。
まず財務諸表や決算書類を整理し、過去3~5年分の業績推移を明確にしておくことが重要です。
また、看護師やスタッフの雇用契約書、利用者との契約書、各種許認可書類なども漏れなく準備しましょう。
事業の強みや特徴を明文化することも大切です。
対応可能な医療処置の範囲、地域でのシェア、利用者数の推移、リピート率などの数値データを整理しておくと、買い手企業への説明がスムーズになります。
特に、利用者の情報(現在の病状や収入に関する情報)も買い手が時間を掛けて確認されるポイントになりますので、情報をまとめておくとスムーズに進めることが可能となります。
さらに、組織体制や人材構成、設備・車両の状況なども一覧にまとめておくことで、デューデリジェンス時の対応が円滑になり、買い手からの信頼獲得につながります。
準備段階での情報整理の質が、最終的な売却価格や条件交渉に大きく影響するため、専門家のサポートを受けながら丁寧に進めることをおすすめします。
M&A専門家への相談
訪問看護ステーションの売却を検討する際、最初に行うべきステップが専門家への相談です。
M&A仲介会社やM&Aアドバイザーは、業界特有の知識と豊富な経験を持ち、適切な売却戦略の立案から交渉、契約締結までをサポートしてくれます。
特に訪問看護業界では、介護保険制度や医療法規制など専門的な知識が必要となるため、業界に精通した専門家を選ぶことが重要です。
相談時には、売却の目的や希望条件、事業の現状などを率直に伝えることで、最適な戦略提案を受けられます。
また、複数の専門家に相談することで、サービス内容や手数料体系を比較検討でき、自社に最適なパートナーを見つけることができます。
初回相談は無料で実施している会社も多いため、まずは気軽に問い合わせてみることをお勧めします。
買い手候補の選定と交渉
売却プロセスにおいて、適切な買い手を見つけることは成功の最重要ポイントです。
M&A仲介会社やアドバイザーと連携しながら、複数の候補先をリストアップします。
候補先の選定基準としては、以下のような要素を検討します。
- 事業シナジーの有無(地域展開、サービス拡充など)
- 買い手の既存拠点との距離感
- 財務的な安定性と買収資金力
- 企業文化や経営方針の適合性
- 従業員や利用者への配慮姿勢
秘密保持契約を締結後、ノンネームシート(匿名資料)で初期的な関心を確認し、興味を示した候補には詳細情報を開示します。
交渉段階では、売却価格だけでなく、従業員の雇用継続や働き方、利用者へのサービス継続、ブランド継承などの条件も重要な論点となります。
複数候補と並行して交渉を進めることで、より有利な条件を引き出せる可能性が高まります。
デューデリジェンスと契約締結
基本合意が成立すると、買い手側による本格的な企業調査が開始されます。
デューデリジェンスでは、財務・法務・労務・人事・事業面での詳細な調査が実施され、通常準備から実施、報告書の作成まで1〜2ヶ月程度の期間を要します。
具体的には以下の項目が精査されます。
| 主担当者(場合により) | 精査される内容 | |
|---|---|---|
| 財務面 | 税理士・会計士・経理担当者など | 過去3〜5年分の財務諸表、税務申告書、キャッシュフロー状況 |
| 法務面 | 弁護士・法務担当者など | 定款、株主名簿、重要契約書、訴訟リスクの有無 |
| 労務面 | 弁護士・法務/人事担当者など | 雇用契約、就業規則、社会保険加入状況、労使トラブルの有無 |
| 人事面 | 弁護士・人事担当者など | 看護師やセラピストの資格保有状況、雇用契約の内容、離職率の推移 |
| 事業面 | 代表者・経営企画担当者など | 利用者情報、診療報酬請求状況、医療機関との連携状況 |
これらの調査結果をもとに、最終的な譲渡価格や条件が調整され、問題がなければ最終契約の締結に進みます。
契約書には、譲渡価格、支払条件、表明保証事項、競業避止義務などが明記され、双方の合意のもと調印されます。
この段階での透明性と誠実な対応が、スムーズな取引完了につながります。
訪問看護ステーションのM&Aで注意すべきポイント

訪問看護事業のM&Aを成功させるためには、一般的な企業買収とは異なり、次のような業界特有の確認事項があります。
- 人材の継続雇用と定着
- 法令遵守と行政処分リスクの確認
- 医療機関との連携体制の引き継ぎ
- PMIの重要性と統合後の課題
これらの無形資産は財務諸表には現れませんが、事業継続には欠かせない要素となります。
加えて、指定事業者としての許認可承継手続きや、自治体への届出も適切に行う必要があります。
以下で、それぞれについて詳しく解説します。
人材の定着と看護師流出防止策
訪問看護事業におけるM&Aを成功させるためには、事業の核となる看護師やリハビリ職などの専門職の確保と定着が最重要課題となります。
買収後の人材流出は事業価値を大きく損なうリスクがあるため、以下のような具体的な対策が求められます。
- 給与体系の見直しと市場水準との比較検証
- キャリアパス制度の明確化と昇進機会の提示
- ワークライフバランスを重視した勤務シフトの設計
- 継続的な研修制度による専門性向上支援
- 職場環境改善とチームビルディング施策
特にM&A実行時には、既存スタッフへの丁寧な説明と不安解消が欠かせません。
譲渡後の処遇や労働条件について透明性を持って伝えることで、スムーズな統合が実現できます。
人材定着率の高さは企業評価にも直結するため、売却前から計画的に取り組むことで、より有利な条件での事業承継が可能になります。
法令遵守と行政処分リスクの確認
訪問看護事業のデューデリジェンスにおいて、コンプライアンス状況の精査は最優先事項となります。
介護保険法や医療法に基づく運営基準を満たしているか、過去に行政指導や処分を受けた履歴がないかを詳細に確認する必要があります。
特に以下の項目は重点的にチェックすべきポイントです。
- 人員配置基準の遵守状況(常勤換算の適切性)
- サービス提供記録の整備状況
- 利用者への説明同意書類の完備
- 報酬請求の適正性(過誤請求や不正請求の有無)
- 個人情報保護体制の整備
過去に行政処分を受けている場合、その内容と改善状況を把握することが重要です。
処分履歴は事業価値に直接影響し、買収後のレピュテーションリスクにもつながります。
また、現在進行中の監査や調査がないかも確認し、潜在的なリスクを事前に洗い出すことが、M&A成功の鍵となります。
医療機関との連携体制の引継ぎ
訪問看護事業において、地域の病院やクリニックとの協力関係は事業価値を左右する重要な要素です。
M&A実施時には、これらの医療機関との信頼関係を確実に承継できるかが成功の鍵となります。
具体的な引継ぎ内容としては以下が挙げられます。
- 主治医との連携フローと報告体制の継続
- 病院の地域連携室との紹介ルートの維持
- 診療情報提供書や訪問看護指示書の授受体制
- 緊急時の連絡体制と対応プロトコル
- カンファレンスへの参加実績と関係性
特に注意すべきは、医療機関側が新体制に不安を感じると紹介患者数が減少するリスクがあることです。
そのため、譲渡契約前から主要な連携先への丁寧な説明と挨拶回りを計画し、既存の信頼関係を損なわない移行プロセスを設計することが不可欠です。
PMIの重要性と統合後の課題
M&A成立後の統合プロセスであるPMI(Post Merger Integration)は、訪問看護事業の成否を分ける重要な局面です。
契約締結がゴールではなく、統合後の運営が真の勝負となります。
特に訪問看護では、以下のような統合後の課題に直面します。
- 看護師やセラピスト、管理者など専門職の組織文化の違いによる摩擦
- 給与体系や勤務条件の統一に伴う不満の発生
- 利用者や家族への説明不足による信頼関係の低下
- 地域医療機関との連携体制の変化による紹介件数の減少
- 経営理念やケア方針の相違による現場の混乱
これらの課題を克服するには、統合前からの綿密なコミュニケーション計画と、段階的な統合スケジュールの策定が不可欠です。
特に現場スタッフへの丁寧な説明と、利用者サービスの質を維持する体制構築が成功の鍵となります。
訪問看護ステーションのM&A成功事例

実際の取引事例を知ることで、訪問看護業界におけるM&Aの実態をより具体的に理解できます。
近年、大手医療法人による複数ステーションの一括買収や、地域密着型の訪問看護ステーションが全国展開企業に譲渡されるケースが増加しています。
成功事例の多くに共通しているのは、譲渡側と譲受側の理念が一致していることや、利用者や従業員への配慮が十分になされている点です。
例えば、後継者不在で事業承継に悩んでいた小規模ステーションが、サービス品質を重視する企業に譲渡され、スタッフの雇用も継続されたケースでは、利用者満足度を維持しながら経営基盤の強化に成功しました。
また、複数の訪問看護ステーションを運営していた事業者が、事業拡大を目指す企業グループに売却し、創業者は得た資金で新たな医療関連事業に挑戦するという好循環も生まれています。
大手企業による買収事例
訪問看護業界では、医療・介護大手による積極的な買収が進んでいます。
上場企業や大手医療法人が、地域密着型の訪問看護ステーションを傘下に収める動きが顕著です。
代表的な事例として、以下のような買収が実施されています。
- 大手医療グループによる地域ステーションの複数買収
- 介護事業大手による訪問看護事業への参入目的の買収
- IT企業による医療DX推進を見据えた買収
買収側企業は事業エリアの拡大や利用者基盤の獲得を目的としており、売却側にとっては経営基盤の安定化や従業員の雇用継続というメリットがあります。
特に後継者不在に悩む中小規模ステーションにとって、大手企業への売却は有力な選択肢となっています。
買収価格は営業利益の2〜5年分が相場とされ、地域性や利用者数によって変動します。
地域密着型の事業承継事例
地方都市で20年以上にわたり訪問看護サービスを提供してきた個人経営のステーションが、地域医療を重視する医療法人に事業を承継した事例があります。
創業者である看護師が高齢となり後継者がいない中、利用者との信頼関係を維持しながら事業を継続できる譲渡先を慎重に選定しました。
譲受側の医療法人は地域に既存の診療所を持っており、訪問看護サービスとの連携によるシームレスな医療提供を目指していました。
譲渡後も創業者は顧問として残り、スタッフ全員の雇用が継続され、サービス品質が保たれた好例です。
譲渡価格は年間営業利益の3〜4倍程度で合意に至り、創業者は安心して引退でき、利用者も継続的なケアを受けられる理想的な承継となりました。
地域に根差した事業だからこそ、理念の共有が成功の鍵となった事例です。
複数拠点の一括譲渡事例
地域に複数の訪問看護ステーションを展開していた中堅企業が、全国展開を進める大手医療グループに全拠点を一括で譲渡した事例があります。
この事例では、5つの訪問看護ステーションを運営していた法人が、創業者の高齢化と後継者不在という課題を抱えていました。
一括譲渡により、譲渡側は適正な評価額での売却が実現し、譲受側は地域での即戦力となる基盤を獲得できました。
特筆すべき点として、以下のメリットが挙げられます。
- 既存スタッフの雇用継続により、サービス品質を維持
- 管理業務の効率化によるコスト削減
- 譲受企業のブランド力を活用した利用者数の増加
- 譲渡金額が単独売却よりも高額になるシナジー効果
このように複数拠点を一括で譲渡することで、双方にとって大きな価値を生み出すことができます。
訪問看護のM&Aにおけるよくあるご質問
Q:従業員の方々にいつのタイミングでM&Aについて話をすればよいでしょうか?また、事前に相談をしてもよいものでしょうか?
A:一般的には「M&Aを完了したタイミング」での開示が良いと考えます。理由は、「まだ決まっていない中で話したところで、従業員様は「どうなるんだろう?」という不安が募るだけになるから」です。また、事前に相談をすることも一般的ではありません。ただ、事業や組織の状況によっては、弊社の事例にもあるように、相談をする場合もあります。その際の伝え方などはサポート致します。
Q:オーナーである私自身は継続して働いてもよい?
A:はい、問題ありません。その旨も含めて、買主様に条件を提示させて頂きます。現状は人材確保に各社様が注力されておられますので、オーナー様にスタッフとして残って頂けることは買主様にとっても喜ばれると思います。
Q:赤字ですが、売却検討は可能でしょうか?
A:はい、可能です。実際に赤字企業の譲渡のサポートも行っております。ただ、あくまでも「お相手があってのお話」となりますので、赤字の状況など、お客様の状況によってM&Aの可能性は変わって参ります。
その他、お客様から頂いたご質問もまとめておりますので、ご覧いただけますと幸いです。もしご不明点がございましたら、いつでもお問い合わせくださいませ。
当社の訪問看護業界のM&A事例
事例1(売主様):ご利用者様や社員、家族を守ろうとした結果、会社を適切な人に託すことを決断しました。

訪問看護業界未経験だったオーナー様が、父の相続を機に当業界に参入。
ただ、“このままではご利用者様や社員を守れなくなるかもしれない”という不安から、会社の譲渡を決意。
M&Aの検討を進める中で、キーマンであったスタッフにも開示し、相談しながら最適な進め方を検討し、無事に株式譲渡を進めることが出来ました。
現在は、訪問看護も訪問介護も事業成長を果たされておられます。
まとめ
訪問看護業界におけるM&Aは、高齢化社会の進展とともに今後さらに活発化していくことが予想されます。
事業譲渡や売却を検討する際には、適切なタイミングの見極めと正確な企業価値評価が成功の鍵となります。
本記事でご紹介した価格相場や成功事例を参考に、自社の状況に合ったM&A戦略を立てることが重要です。
また、専門家のサポートを受けることで、より有利な条件での交渉や円滑な手続きが可能になります。
訪問看護事業の売却や買収、事業承継をお考えの方は、M&A専門のアドバイザーに相談することをお勧めします。
当社BuysideBankでは、訪問看護業界に精通した専門家が、貴社の状況に応じた最適なM&A戦略をご提案いたします。
まずはお気軽にお問い合わせください。