M&A・事業承継コラム

バイアウトとは?4つの手法と目的やメリット・デメリットから成功させるポイントや注意点を徹底解説

  • テーマ : 事業承継とM&A

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バイアウトとは、企業の経営権を取得するための買収手法であり、近年のM&A市場及び企業経営手法の一つとして注目を集めています。

経営者の高齢化や後継者不足が深刻化する中、事業承継の選択肢としてバイアウトを検討する企業が増加しています。

バイアウトには、主にMBO・EBO・LBO・MBIの4つの手法があり、それぞれ買収主体や資金調達方法が異なります。

本記事では、各手法の特徴や目的、メリット・デメリットを詳しく解説するとともに、バイアウトを成功させるためのポイントや実行時の注意点まで、経営者が知っておくべき情報を網羅的にお伝えします。

バイアウトとは?

バイアウトとは?

バイアウト(Buyout)とは、一般的には経営者や従業員、ファンドが企業の経営権を取得するために株式を買い取る手法を指します。
具体的には、企業の発行済株式の過半数または全株式を取得することで、経営の意思決定権を獲得する取引形態です。買収資金の調達方法や買い手の属性によって、複数の種類に分類されます。

日本では、中小企業庁が公表する「事業承継ガイドライン」において、後継者不在企業の解決策の一つとして位置づけられています。
バイアウトは単なる株式譲渡とは異なり、経営権の完全な移転を伴う点が特徴です。買収後は新たな経営陣が事業運営の全権を握り、企業価値向上に向けた戦略を実行します。

バイアウトが注目される背景

日本企業において、バイアウトへの関心が高まっている主な要因は、深刻化する後継者不在問題です。

中小企業庁の「中小企業白書2025」によれば、経営者の高齢化が進む一方で、親族内承継が困難なケースへの対策は必須と記載されています。
さらに、グローバル競争の激化により、企業は迅速な経営判断と資本効率の向上を求められるようになりました。上場企業においても、株主からの経営改善要求に応えるため、非上場化によるスピーディーな経営改革を選択する事例が増えています。

加えて、プライベートエクイティファンドの日本市場への参入拡大も、バイアウト市場の活性化を後押ししています。

売却やセルアウトとの違い

「バイアウト」と混同されやすい用語として、「売却・セルアウト」がありますが、両者には視点と目的に明確な違いがあります。
「売却」や「セルアウト」は、株式を手放す売り手側の視点から見た表現です。オーナー経営者が保有株式を譲渡し、経営から退く際に使われます。
一方、「バイアウト」は株式を取得する買い手側の視点を示す用語です。経営権の獲得を目的とした能動的な行為を表現しています。
経済産業省の「公正なM&Aの在り方に関する指針」でも、買収側の戦略的意図を重視する文脈でバイアウトという用語が使用されています。
実務では同じ取引を指していても、立場によって呼び方が変わる点を理解しておくことが重要です。

バイアウトとM&A・イグジットの違い

バイアウトとM&A・イグジットの違い

企業の買収や売却に関する用語は似ているものが多く、混同されがちです。

ここでは、それぞれの違いを明確にしておきましょう。

バイアウトは買収手法の一つであり、M&Aやイグジットとは概念の範囲が異なります。

意味 特徴
バイアウト 経営権の取得を目的とした買収 MBO・LBOなど複数の手法が存在
M&A 合併と買収の総称 バイアウトを含む広い概念
イグジット 投資資金の回収・出口戦略 IPOや売却などの方法がある

M&Aは企業の合併・買収全般を指す包括的な用語です。

一方、イグジットは投資家やオーナーが保有株式を現金化する出口戦略を意味します。

バイアウトとM&Aの違い

M&Aは企業間の合併や買収を幅広く含む総称であり、バイアウトはその手法の一つに位置づけられます。

両者の主な違いは以下のとおりです。

  • M&A:第三者への売却、合併、株式交換など多様な取引形態を含む
  • バイアウト:経営陣や従業員、ファンドなど特定の主体が経営権を取得する手法

つまり、バイアウトはM&Aの一形態であり、買い手が社内関係者や投資ファンドに限定される点が特徴です。

事業承継を検討する際は、第三者へのM&Aとバイアウトのどちらが自社に適しているか慎重に判断する必要があります。

詳しい情報は経済産業省のM&Aガイドラインをご参照ください。

バイアウトとイグジットの違い

投資からの撤退方法として、これら2つの概念は密接に関連しています。

イグジットとは、投資家やオーナーが保有株式を売却し、投資資金を回収する出口戦略全般を指します。

バイアウトはイグジット手法の一つとして位置づけられます。

  • イグジットの主な手法:IPO(株式公開)、M&A、バイアウト
  • バイアウトの役割:第三者や経営陣への株式売却による資金回収

つまり、イグジットが上位概念であり、バイアウトはその実現手段の一つです。

経営者にとっては、どの方法で事業から撤退するかを戦略的に選択することが重要となります。

バイアウトの4つの手法と特徴

バイアウトの4つの手法と特徴

企業買収を実現するための手法は、誰が主体となって買収を行うかによって分類されます。

経営者や従業員、外部の投資家など、買収主体によってそれぞれ異なるメリットや活用場面があります。

以下の表で4つの主要な手法を比較してご確認ください。

買収主体 主な特徴
MBO 現経営陣 経営陣が自社株式を取得して独立
EBO 従業員 従業員が株式を取得して経営権を獲得
LBO 外部投資家等 買収対象企業の資産やキャッシュフローを担保に資金調達
MEBO 経営陣と従業員 MBOとEBOを組み合わせた手法

上表の通り、それぞれの手法には独自の特徴があり、企業の状況や目的に応じて最適な選択肢が異なります。

以下では、手法ごとに特徴を詳しく解説していきます。

MBO(マネジメント・バイアウト)とは

MBO(マネジメント・バイアウト)とは、現経営陣が自社の株式を買い取り、経営権を取得する手法を指します。

オーナー企業の事業承継や上場企業の非公開化において、経営の独立性と継続性を維持しながら企業価値を高められる点が最大の特徴となります。

MBOの主な特徴は以下の通りです。

  • 既存の経営陣が引き続き経営を担当
  • 事業内容や企業文化の継続性が高い
  • 親会社からの独立や事業承継に適している
  • 従業員の雇用継続が期待できる
  • 金融機関やファンドからの資金調達が必要になることが多い

買収資金は、自己資金に加えて金融機関からの借入やプライベート・エクイティ・ファンドからの出資を組み合わせて調達します。

事業承継問題を抱える企業や、株主圧力から解放されたい経営者・経営陣にとって、MBOは実効性の高い戦略となります。

EBO(エンプロイー・バイアウト)とは

EBO(エンプロイー・バイアウト)とは、従業員が主体となって自社の株式を買い取り、経営権を獲得する手法を指します。

後継者不在に悩む企業にとって、事業内容を熟知した社員に承継できる点が大きな魅力です。

EBOの主な特徴は以下のとおりです。

  • 会社の理念や文化を継承しやすい
  • 取引先や顧客との関係を維持できる
  • 従業員のモチベーション向上につながる
  • 外部への情報漏洩リスクが低い

一方で、従業員個人が買収資金を調達することは容易ではありません。

金融機関からの融資やファンドの活用が必要となるケースがほとんどです。

LBO(レバレッジド・バイアウト)とは

LBO(レバレッジド・バイアウト)とは、借入金を活用して企業買収を行う手法です。

買収対象企業の資産や将来のキャッシュフローを担保として金融機関から資金を調達し、少ない自己資金で大規模な買収を実現できる点が最大の特徴となります。

具体的には、買収企業が対象企業の株式や事業資産を担保に融資を受け、その資金で経営権を取得します。

買収後は対象企業が生み出すキャッシュフローで借入金を返済していく仕組みです。

LBOの主な特徴は以下の通りです。

  • 買収先企業の将来キャッシュフローを返済原資とする
  • 自己資金の数倍規模の買収を実現できる
  • 投資ファンドが活用することが多い

ただし、借入金が多くなるため財務リスクが高まる点には注意が必要です。

買収後の経営が計画通りに進まない場合、返済負担が重くのしかかる可能性がありますので、金融機関との交渉力や事業計画の実現可能性が、LBO成功の鍵を握ります。

MEBO(マネジメント・エンプロイー・バイアウト)とは

MEBO(マネジメント・エンプロイー・バイアウト)とは、経営陣と従業員が共同で株式を取得する手法です。

MBOとEBOの特徴を組み合わせた形態であり、経営層だけでなく一般従業員も資金を出資して経営に参画します。

この手法の最大の特徴は、従業員のモチベーション向上と経営の安定化を同時に実現できる点にあります。従業員が株主となることで、会社の業績向上が自身の利益に直結するため、主体的な経営参画意識が醸成されます。

中小企業庁の事業承継ガイドラインでも、従業員の経営参画による事業承継の選択肢として言及されています。

ただし、EBOと同じく従業員の資金調達能力や経営スキルの有無が成功の鍵となるため、実施には慎重な準備が必要です。

バイアウトの手法別の目的

バイアウトの手法別の目的

企業が直面する経営課題や戦略目標に応じて、最適なバイアウト手法は大きく異なります。

事業承継を検討する経営者にとっては、MBOによる従業員への承継や、EBOによる社員への経営権移譲が有力な選択肢となります。

一方、企業価値の飛躍的向上を目指す場合は、LBOを活用した大型買収や、MBIによる外部経営陣の招聘が効果的です。

以下の表で、各手法の主な目的を確認しましょう。

手法別での主な目的
MBO 経営陣による自社買収・事業承継
EBO 従業員への経営権移転
LBO 少ない自己資金での買収実現
MEBO 外部経営者による企業再建

各手法は事業承継や企業価値向上など、経営者の戦略に応じて選択されます。

以下で、各手法ごとに実施する目的と適用ケースを詳しく解説していきます。

MBOを実施する目的

経営陣が自社の株式を買い取るMBOには、いくつかの明確な目的があります。

主な目的として以下の点が挙げられます。

  • 上場企業の非公開化による経営の自由度向上
  • 短期的な株主利益に左右されない長期的経営の実現
  • 後継者不在企業における事業承継問題の解決
  • 敵対的買収からの防衛策

特に上場企業では、株主への説明責任や四半期決算対応など多くの制約があります。

MBOによって非公開化することで、これらの負担から解放され、抜本的な経営改革に取り組めるようになります。

中小企業においては、親族に後継者がいない場合の事業承継手段としても有効です。

また、MBOの適用ケースとしては、創業者の高齢化に伴う事業承継や、非中核事業の独立、株式市場の評価と企業実態の乖離解消などが典型例です。

EBOを実施する目的

従業員が経営権を取得するEBOは、主に事業承継の手段として実施されます。

後継者となる親族がいない場合でも、社内で実務経験を積んだ従業員に経営を引き継ぐことで、企業文化や取引先との関係を維持できます。

EBOの主な目的は以下のとおりです。

  • 経営理念や企業文化の継承
  • 従業員のモチベーション向上
  • 外部への情報漏洩リスクの軽減
  • 取引先や顧客との信頼関係維持

特に中小企業においては、長年勤務してきた従業員が会社の強みや課題を熟知しているため、スムーズな経営移行が期待できます。

また、主なEBOの適用ケースとして以下が挙げられます。

  • 後継者不在だが優秀な従業員チームが存在する
  • 企業文化や技術の継承を最優先したい
  • 地域密着型事業で雇用維持が重要

EBOの実施により、従業員が会社のオーナーとなることから、モチベーション向上と離職率低下が期待できます。

LBOを実施する目的

LBO(レバレッジド・バイアウト)は、借入金や社債などのレバレッジ(てこの原理)を活用して企業買収を実現する手法です。

主な実施目的は以下の通りです。

  • 少額の自己資金で大規模な企業買収を可能にする
  • 買収対象企業の資産や将来キャッシュフローを担保に資金調達する
  • 投資効率を最大化し、高いリターンを追求する
  • 経営改善後に企業価値を向上させて売却益を得る

プライベート・エクイティ・ファンドが活用することが多く、買収後の経営改善を通じて企業価値を高め、数年後の売却によってキャピタルゲインを獲得することを目指します。

主な適用ケースは以下の通りです。

  • 安定したキャッシュフローを持つ成熟企業の買収
  • 事業承継における後継者の資金不足解消
  • 上場企業の非公開化(MBO-LBO)

日本政策金融公庫をはじめ各銀行では、事業承継を目的としたLBO向けの融資制度も整備されており、中小企業でも活用可能です。

買収後は対象企業の資産やキャッシュフローを担保に借入返済を行うため、財務レバレッジ効果により投資収益率(ROI)の向上が期待できます。

MEBOを実施する目的

MEBO(Management and Employee Buyout)は、経営陣と従業員が協力して自社株式を取得する手法です。

MEBOが選択される主な目的は以下の3つです。

  • 後継者不在の解決と従業員のモチベーション向上
  • 企業文化の継承と雇用の安定確保
  • 外部資本に頼らない自立的な経営体制の構築

上記の中でも、この手法を実施する最大の目的は、経営の安定性と従業員のモチベーション向上を同時に実現することにあります。

経営陣のみで実施するMBOと比較して、従業員も株主として経営に参画することで、会社への帰属意識が高まることが期待できます。

特に中小企業における事業承継の場面では、後継者不在の問題を解決しながら、企業文化や従業員の雇用を維持できる点が評価されています。

また、経営陣と従業員が利益を共有することで、一体感のある組織運営が可能になります。

なお、MEBOの適用に最適なケースは、経営陣と従業員の関係性が良好で、事業の将来性が明確な企業です。

バイアウト手法別のメリット・デメリット分析

バイアウト手法別のメリット・デメリット分析

上記で紹介したバイアウトの手法は、企業買収の実行において、どの手法を選択するかが成功の鍵を握る重要な判断となります。

各手法にはそれぞれ固有の特性があり、資金調達方法や経営権の移行プロセス、税務上の取り扱いなどが大きく異なります。

MBO、LBO、EBOの3つの手法は、それぞれ買収主体や資金調達構造において独自の強みと課題を持っています。

以下では、各手法ごとに具体的なメリット・デメリットを整理し、どのような状況でどの手法が最適かを明確にしていきます。

MBOのメリットとデメリット

経営陣による自社買収であるMBOには、経営の独立性確保や迅速な意思決定という大きな利点があります。

主なメリットは以下の通りです。

  • 株主からの短期的な利益追求圧力からの解放
  • 長期的な視点での経営戦略の実行が可能
  • 従業員の雇用維持と企業文化の継承

一方で、デメリットとして注意すべき点もあります。

  • 多額の資金調達による財務リスクの増大
  • 既存株主との利益相反が生じる可能性がある
  • 経営陣の能力次第で企業価値が左右される

2025年には上場廃止企業数が2年連続で最多数の124社となっています。特に、親会社が上場子会社の全株式を買い取り、親子上場を解消したり、MBOにて株式を非公開化する事例が増加しています。

EBOのメリットとデメリット

従業員が自社を買い取るEBO(エンプロイー・バイアウト)は、経営陣だけでなく一般従業員も経営参画できる点が最大の特徴です。

最大のメリットは、社内事情を熟知した人材が経営を引き継ぐため、企業文化や取引先との関係性を維持しやすい点です。

主なメリットは以下の通りです。

  • 従業員のモチベーション向上につながる
  • 経営の継続性が確保できる
  • 顧客や取引先からの信頼を維持しやすい

一方、デメリットとしては以下の課題があります。

  • 資金調達の困難性(従業員の信用力不足)
  • 経営経験の不足によるリスク
  • 従業員間の利害調整の複雑さ

成功には、金融機関との綿密な事前協議と、外部専門家による経営支援体制の構築が不可欠です。また、従業員間での意思統一が実行後の経営状況にも影響を与える為、コミュニケーションが必須となります。

LBOのメリットとデメリット

レバレッジド・バイアウト(LBO)は、買収資金の大部分を借入金で調達する手法として、少ない自己資金で大規模な買収を実現できる点が最大の特徴です。

主なメリットとして、以下の3点が挙げられます。

  • 少ない自己資金での買収可能
  • レバレッジ効果により高いROEを実現
  • 金利支払いによる節税効果

買収実施時には、買収総額の約20〜30%程度の自己資金で買収が出来る点が一番のメリットとなります。一方で、高額な借入金による財務負担の増加、金利上昇リスク、返済計画の厳格性といったデメリットも存在します。

特に事業環境の変化により計画通りのキャッシュフローが得られない場合、経営が圧迫される可能性があるため、綿密な事業計画と返済シミュレーションが不可欠です。

MEBOのメリットとデメリット

MEBO(Management Employee Buy-Out)は、経営陣と従業員が一体となって実施する独特な買収手法として注目されています。

経営陣と従業員が共同で企業の経営権を取得するこの方式には、以下のような特徴があります。

主なメリットは以下の通りです。

  • 経営陣と従業員の一体感が強まり、組織の結束力が向上する
  • 資金調達の負担を分散できる
  • 従業員のモチベーション向上と離職防止につながる
  • 企業文化や事業方針の継続性を保ちやすい

一方で、MEBOの主なデメリットは以下です。

  • 参加者が多くなるため意思決定に時間がかかる可能性がある
  • 株主間の利害調整が複雑になる
  • 従業員の資金力に限界があり、大規模な買収には不向き

2024年の税制改正では、M&A費用の損金算入の拡充や対象企業の拡充など、事業承継の後押しとなる優遇措置が拡充されています。今後も税制などの仕組みの面からも、中小企業でのM&AにおけるMBOやEBOなどの活用事例が増加していくと考えられます。

弊社にMBOやEBOでのご相談を頂くことも多く、それぞれの会社の状況や調達可能な資金総額などに合わせて、進めることが可能なスキームをご提案させて頂いております。(吉川)

バイアウトを成功させる4つの重要ポイント

バイアウトを成功させる4つの重要ポイント

多くの経営者がバイアウトの実行を検討する中で、実際に成功へと導くためには戦略的な準備と適切な実行が不可欠です。

中小企業庁の事業承継ガイドラインによれば、専門家の活用が成功率を大きく左右するとされています。

M&Aアドバイザー、公認会計士、税理士、弁護士、司法書士など各分野の専門家を適切に配置することで、デューデリジェンスから契約交渉まで的確に進められます。

ここでは、バイアウトを成功させるために重要な4つのポイントについて、以下でそれぞれ詳しく解説していきます。

1.企業価値の正確な算定

バイアウトの成否を左右する最も重要な要素の一つが、適正な買収価格の設定です。

買収対象企業の価値算定には、主に以下の3つの手法が用いられます。

  • DCF法(割引キャッシュフロー法):将来の予想キャッシュフローを現在価値に割り引いて算出
  • 類似企業比較法:同業他社の株価指標を参考に算定
  • 純資産法:貸借対照表の純資産をベースに評価

中小企業のM&Aでは、中小企業庁の「平成28年に策定された事業承継ガイドライン」では「時価純資産法にのれん代を加味した評価」が用いられることが多いと記載されています。

ただし、算定結果はあくまで理論値であり、実際の交渉では市場環境や競合他社の動向、シナジー効果なども考慮する必要があります。

なお、算定時には以下の要素を総合的に考慮する必要があります。

  • 将来キャッシュフローの予測精度
  • 事業リスクの適切な反映
  • 無形資産(ブランド、顧客基盤等)の評価
  • 市場環境や業界動向の分析

特に、過大評価は買収後の負担増加につながり、過小評価は売主との交渉が難航する原因となるため、公認会計士や企業評価の専門家に依頼することが賢明です。また、評価方法も一つにこだわらず、多面的に確認することが重要です。

2.バイアウトファンドの活用

バイアウトファンドとは、投資家からお金を集め、成熟した企業や業績不振の企業の株式の過半数を買い取り、経営権を握る投資ファンドのことです。

専門的な知識と豊富な資金力を持つプロフェッショナル集団の支援を得ることで、バイアウトの成功確率を飛躍的に高めることができるでしょう。

投資ファンドは企業価値向上のノウハウを保有しており、買収後の経営改善や事業再編を効果的にサポートします。

具体的には以下のような支援が期待できます。

  • デューデリジェンスの専門的な実施
  • 最適な資金調達スキームの構築
  • 経営陣の選定と組織体制の整備
  • EXIT戦略の立案と実行支援

特に、事業承継を検討する中小企業にとって、ファンドとの協働は後継者問題の解決と同時に、デジタル化推進や海外展開といった成長戦略の実現を可能にします。

3.バイアウトを想定した経営戦略の立案

将来的なバイアウトの実現を見据えた場合、日常の経営活動から戦略的な準備を進めることが不可欠です。

企業価値を最大化するためには、財務体質の健全化と収益構造の改善を計画的に行う必要があります。

具体的には、以下の要素を経営戦略に組み込むことが推奨されます。

  • 明確な事業計画と中長期的な成長ロードマップの策定
  • コア事業への集中と不採算部門の整理
  • ガバナンス体制の強化と経営の透明性向上
  • 知的財産権や顧客基盤などの無形資産の蓄積

上記の準備には相応の時間がかかります。早い段階からの「準備」の重要性が中小企業庁の中小企業ガイドラインでも強調されています。

また、定期的な企業価値評価を実施し、市場環境の変化に応じて戦略を柔軟に修正していくことで、最適なタイミングでのバイアウト実行が可能となります。

4.M&A専門家への相談

バイアウトの成功確率を大幅に高めるためには、経験豊富な専門家のサポートが不可欠です。

但し、その専門家が持つ知識や経験、さらにサポート体制の確認は必須です。

ここでは、優良なアドバイザー選定の基準の一例を以下に記載します。

  • 業界毎の専門知識と実績があること
  • 財務・法務・税務の総合的なサポート体制があること
  • 利益相反のない中立的立場にあること
  • 適正な報酬体系(成功報酬型が主流)であり、明確であること

特にM&Aアドバイザーは、買収候補先の選定から交渉、クロージングまで一貫したサポートを行います。

実績豊富な専門家を早期に選定し、初期段階から関与してもらうことで、リスクを最小限に抑えながらバイアウトを進められます。

バイアウト実施時の注意点

バイアウト実施時の注意点

バイアウトを実施する際には、複数の重要なリスク要因を事前に把握しておく必要があります。

まず財務面での注意点として、買収資金の調達方法や返済計画を慎重に検討することが求められます。

特にLBOを活用する場合、過度な借入は経営の自由度を制限し、キャッシュフローを圧迫するリスクがあります。

次に法務面では、株主総会の特別決議や債権者保護手続きなど、会社法に基づく適切なプロセスを踏むことが不可欠です。

会社法に従い、コンプライアンスを遵守した手続きを進めることで、後のトラブルを回避できます。

さらに従業員への影響も考慮すべき重要な要素です。

経営体制の変更は従業員の不安を招く可能性があるため、丁寧なコミュニケーションと雇用条件の維持が求められます。

以下で、バイアウト実施時の注意点についてそれぞれ詳しく解説していきます。

役員や従業員の待遇に関する注意点

バイアウト実施時には、経営陣や一般従業員の処遇について慎重な配慮が必要です。

特にMBOやEBOでは、買収に参加する役員と参加しない従業員との間で待遇格差が生じる可能性があります。

株式取得に参加できる立場とそうでない立場では、将来的な経済的メリットに大きな差が出るため、社内の公平性や士気維持の観点から適切な説明と配慮が求められます。

また、バイアウト後の雇用条件や給与体系の変更についても、事前に明確な方針を示すことが重要です。

厚生労働省が定める労働基準法に基づき、労働条件の不利益変更には従業員の同意や合理的な理由が必要となります。

従業員の不安を軽減し、バイアウト後の円滑な事業運営を実現するためには、透明性の高いコミュニケーションと公正な処遇設計が不可欠です。

株式の保有者に関する注意点

バイアウトを実施する際、株式の保有構造や株主構成を正確に把握することが極めて重要です。

特に中小企業では、名義株や所在不明株主の存在が問題となるケースが少なくありません。株主名簿と実際の保有者が異なる場合、買収手続きが大幅に遅延する可能性があります。

また、株主間契約や種類株式の発行状況も事前に確認が必要です。優先株式や拒否権付株式が存在する場合、買収後の経営判断に制約が生じる恐れがあります。

法務局の商業・法人登記情報を活用し、登記内容と実態の整合性を確認しましょう。さらに、少数株主の存在も見逃せません。買収後のスクイーズアウト手続きを見据え、株式買取請求権の行使リスクも考慮する必要があります。

買収企業の要望に関する注意点

買収を検討する企業側の要望を正確に把握することは、バイアウト成功の鍵となります。

買収企業は単なる資金提供者ではなく、事業の成長戦略やガバナンス体制について明確なビジョンを持っています。

そのため、売却側は買収企業が求める以下の要素を事前に整理しておく必要があります。

  • 事業の収益性と成長性に関する具体的なデータ
  • 経営陣の継続性と後継者育成計画
  • コンプライアンス体制とリスク管理状況
  • 既存従業員の雇用維持方針

それぞれの認識の違いが買収後の経営方針の不一致につながり、結果として多くのトラブル発生の原因となってしまいます。

特に家族経営から外部資本への移行では、企業文化や経営理念の継承について十分な協議が必要です。

買収企業の期待値と現実のギャップを埋めるため、デューデリジェンス段階から誠実な情報開示を心がけましょう。

バイアウトの事例紹介

日本国内では、過去10年間で数多くのバイアウト案件が成功を収め、企業価値の飛躍的な向上を実現しています。

特に製造業や小売業、IT関連企業において、経営陣による自社買収(MBO)やファンドを活用したLBOが活発に行われています。

その中でも、成功企業に共通するのは、明確な成長戦略の策定と、経営陣・従業員との丁寧なコミュニケーション、そして適切な資金調達スキームの構築です。

実際の成功事例を詳しく分析することで、自社に最適なバイアウト手法の選択や、実行時の留意点が明確になります。

MBOの成功事例

日本では2000年代以降、経営陣による自社買収(MBO)が活発化し、多くの成功事例が生まれています。

代表的な事例として、以下に2件の事例を紹介します。

●2006年のすかいらーくのMBO
買収規模は約2,700億円で2006年時点では国内最大規模のMBO事例です。経営不振であった状況下において、このMBOの目的としては、短期的な株主からのプレッシャーの回避や経営のスピーディーな意思決定が求められる環境だと考えられます。非上場化を行った後には、各店舗の業態変更やリブランディング・新業態の開発・経営基盤の強化など様々な経営改革を進めました。結果として、経営再建に成功し、2014年にすかいらーくホールディングスとして再上場を果たしています。

●2024年の大正製薬ホーディングスのMBO
買収規模は約7,100億円で日本企業における史上最大規模のMBOとなりました。2023年末から2024年4月の上場廃止までの期間で、創業家が主導でMBOの実行を行いました。創業家が運営する会社が資金を投じて全株式を取得するスキームで、経営の自由度の確保と相続対策や支配権強化が主な目的とされています。このMBOでは、買収価格がPBR(株価純資産倍率)が1倍を割れた価格であったことから、一部株主より「株価が安すぎる」といった批判もでた大規模な非上場化となりました。

上記の成功事例に共通する特徴は、下記のとおりです。

  • 経営陣の強いリーダーシップ
  • 金融機関との綿密な連携
  • 従業員への丁寧な説明
  • 中長期的な成長戦略の明確化

特に中堅・中小企業では、事業承継の選択肢としてMBOを活用するケースが増加しています。狙いとして経営の継続性を保ちながら企業価値を向上させる手法として注目されています。

LBOの成功事例

レバレッジド・バイアウト(LBO)を活用して飛躍的な成長を遂げた企業として、2014年に実施されたすかいらーくホールディングスの再上場案件が注目されています。

同社は2006年に野村プリンシパルファイナンス(後にベインキャピタルに株主が変更)によるLBOで非上場化後を行い、デジタル化推進と業態転換、新業態開発などにより企業価値を飛躍的に向上させました。

成功要因は以下の通りです。

  • 借入金を活用した機動的な設備投資
  • 経営陣への株式インセンティブ導入
  • 不採算店舗の戦略的撤退

LBOの成功には適切なレバレッジ比率の設定と、明確な出口戦略が鍵となります。

EBO・MEBO実施事例

従業員による企業買収であるEBO(Employee Buyout)と、経営陣と従業員が共同で実施するMEBO(Management Employee Buyout)は、日本の中小企業において事業承継の有力な選択肢として注目されています。

成功要因としては、以下が挙げられます。

  • 従業員持株会の活用による資金調達
  • 段階的な株式取得スキームの構築
  • 外部専門家による企業価値評価の実施

特に製造業やサービス業では、現場を熟知した従業員が経営権を取得することで、顧客との信頼関係を維持しながら円滑な事業承継を実現できます。

バイアウトに関するよくある質問

Q:バイアウトの相談から実行までどの程度の時間がかかりますか? 

A:実際の完了まではお客様の状況によります。一般的には、ご相談から完了まで1年程度はかかる想定を頂くほうが良いです。

Q:株式評価の進め方について教えて下さい。

A:株式評価の方法は、コストアプローチ、インカム・アプローチ、マーケットアプローチと様々な手法があります。各手法毎に暫定的な評価額を算出するためには、決算書3期分と減価償却台帳を共有頂ければ作成が可能となります。

Q:従業員が株を買い取る場合に注意をしなければならないことは?

A:従業員が買手となる「EBO」においては資金調達が最も大きなハードルとなります。資金調達については、株式買取に参加する従業員の方々が主体となりますが、サポートなしに実行することは非常に困難です。その場合、弊社では資金調達に関する一部サポートは可能です。

まとめ

本記事では、バイアウトの基本概念から4つの主要手法、それぞれのメリット・デメリット、成功のポイントまでを詳しく解説してきました。

MBOやEBO、LBO、MBIという各手法にはそれぞれ特徴があり、企業の状況や目的に応じて最適な選択をすることが重要です。

バイアウトを成功させるためには、適切な企業価値評価、資金調達計画、経営陣との合意形成など、多岐にわたる準備と専門的な知識が不可欠です。

特に事業承継や企業価値向上を検討されている経営者の皆様にとって、専門家のサポートを受けながら進めることが成功への近道となります。

バイアウトに関するご相談や具体的な実行支援については、ぜひ当社までお気軽にお問い合わせください。

この記事を監修した担当者

株式会社Buyside Bank 代表取締役
M&Aアドバイザー

吉川 翔

1984年 大阪府堺市生まれ。㈱リクルートに新卒入社。求人広告の営業、組織コンサルタント、EC事業の営業組織マネジャーなどを歴任。2016年に大手上場M&A仲介会社に転職。M&Aアドバイザーとして在籍1年半の間に11件の成約をサポート。M&Aの実行支援フェーズだけでなく、「経営者が意思決定を行うタイミングからサポートしたい」と考え、2018年5月に㈱Buyside Bank創業。「気軽にM&Aのことを聞いてもらえて、M&A以外の選択肢を含めて相談できる存在になること」を目指す。年間およそ100人以上の経営者と面談し、創業から2025年4月までの7年間でM&Aアドバイザーとして約40件のM&A成約を支援する。

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