高齢化社会が進む中、介護業界では人材不足や経営者の高齢化といった課題が深刻化しています。
施設の維持・拡大や事業の継続に悩む経営者が増える一方で、新規参入を目指す企業や事業拡大を図る事業者によるM&Aが活発化しています。
本記事では、介護・福祉分野におけるM&Aの最新トレンドや成功事例、実際の案件情報について詳しく解説します。
事業承継の選択肢としてのM&A活用法や、買収側・売却側それぞれのメリット、取引を成功に導くポイントまで、実践的な情報を網羅的にお届けします。
介護事業の売却や買収を検討している方、後継者不在で悩んでいる経営者の方、さらには企業価値を高めたい方にとって、具体的な判断材料となる内容です。
業界特有の評価基準や注意点も含めて、分かりやすくご紹介していきます。
介護・福祉業界の概要とM&Aの概要

日本の高齢化率は世界最高水準にあります。2023年10月時点で65歳以上の人口は総人口の29%を超えています。また、2024年度の介護保険制度による介護費用(介護給付費と自己負担額の総額)は約12兆円で、年4,000億円規模で増加しています。
この社会構造の変化に伴い、介護・福祉サービスへの需要は年々増加の一途をたどっており、業界では、以下のような事業形態が数多く存在します。
- 特別養護老人ホームや有料老人ホームなどの入居型施設
- デイサービスやショートステイなどの通所・短期入所サービス
- 訪問介護や訪問看護などの在宅サービス
- 障がい者支援施設や児童福祉施設
一方で、介護・福祉業界では、次のような深刻な課題に直面しています。
- 慢性的な人材不足
- 介護報酬の改定による収益性の変動
- 設備投資の負担増
- 創業者の高齢化や後継者不足
このように介護・福祉業界では、業界が成長する一方で、経営の圧迫や事業承継問題が顕在化しています。
こうした背景から、介護・福祉業界ではM&Aが事業継続や成長戦略の有力な手段として活用されています。
具体的には、以下のような「大手企業による地域事業者の買収、同業他社との統合、異業種からの新規参入」など、多様な形でM&Aが実施されています。
- 訪問介護事業所やデイサービスなどの施設単位での譲渡
- 介護事業を展開する法人全体の株式譲渡
- 特定の事業部門のみを切り出す事業譲渡
- 複数の施設を運営する企業同士の合併
各手法にはメリット・デメリットがあり、事業規模、財務状況、承継の目的によって最適な選択肢は異なります。
また、介護・福祉業界でのM&Aにおいて、売却側の従業員の継続雇用や利用者サービスの継続を重視した「友好的M&A」が主流となっています。
弊社にてサポートさせて頂いた当業界でのM&Aにおいても、全て「友好的M&A」となっています。特に従業員の雇用継続については、M&Aの実行前から買主様が最も重視されるポイントとなっています。仮に、株主・経営者の交代で従業員が離脱する可能性が高い場合は、実行前に破断になるか事前の対策が必要となります。
なお、「訪問介護におけるM&A」や「訪問看護におけるM&A」についても、下記の別記事にて詳しくまとめておりますのでご参照ください。
介護・福祉業界におけるM&Aの種類と特徴
介護業界のM&Aには主に株式譲渡、事業譲渡、合併という三つの手法があります。
「株式譲渡」は、介護事業を運営する法人の株式を買収側に譲渡する方法で、法人格がそのまま継続されるため許認可を新たに申請するなどの手続きが不要です。
株式譲渡では、法人が運営する事業(訪問介護やデイサービス、居宅支援サービスなど複数の事業)を一括で承継できるメリットがあります。
「事業譲渡」は、特定の施設や事業部門のみを切り出して譲渡する形態です。
事業譲渡では、売却側は不要な事業を残しながら必要な部分だけを売却でき、買収側も希望する事業だけを取得できます。
ただし、介護保険事業の指定や許認可を新たに取得する必要がある場合があります。
「合併」は、複数の法人が一つになる手法で、地域での影響力拡大やスケールメリットの追求に適しています。
合併には、吸収合併と新設合併があり、事業規模の拡大と経営効率化を同時に実現できる特徴があります。
介護・福祉業界のM&Aの最新動向

介護業界では近年、M&A件数が右肩上がりで増加しており、2025年現在でも過去最高水準の活況を呈しています。
この背景には、介護事業所の経営者の高齢化と後継者不在問題があり、全国の介護施設経営者の平均年齢は60歳を超え、約6割が後継者未定という調査結果も出ています。
一方で、買い手側には大手介護事業者や異業種からの新規参入企業が増えています。
特に注目されているのは以下のような動きです。
- 大手企業による地域密着型施設の買収
- ITやヘルスケア企業による介護テック導入を見据えた参入
- 地域包括ケアシステム構築を目指した複合型サービスの統合
最近では、訪問介護やデイサービスなどの在宅系サービスを展開する事業者間での統合が活発化しています。
加えて、異業種からの参入も目立ち始めており、不動産会社や医療法人が介護事業へ進出するケースも増えています。
介護報酬改定による収益環境の変化や、人材確保の困難さも、M&Aを後押しする要因となっています。
また、これらの取引価格は、安定的に推移しており、優良施設では高値での取引も珍しくありません。
今後も業界再編の動きは加速し、地域に根差した質の高いサービス提供を目指す事業統合が進むと予測されています。
2025年の市場トレンド
2025年の介護業界では、デジタル化と人材戦略を軸としたM&Aが主流となっています。
介護DXを推進する企業による買収案件が増加しており、ICT導入が進んだ施設は評価額が高まる傾向にあります。
具体的なトレンドとしては以下が挙げられます。
- 介護ロボットやAI見守りシステムを導入済みの施設への需要増加
- 外国人介護人材の受け入れ体制が整った事業所の評価向上
- 地域密着型サービスと訪問介護の複合経営モデルの人気
- 医療法人による介護施設買収の活発化
また、3年に一度の介護報酬改定の影響も見逃せません。
直近では、処遇改善加算の拡充により、積極的に人材確保に動いた企業で、人材採用に成功している施設は今後の企業価値が上昇していくことが予想されます。
売却を検討する経営者にとっては、デジタル化投資や人材採用・人材育成への取り組みが、より高い企業価値につながり、売却価格向上につながる重要な要素となっています。
介護サービスの種類別M&A動向
介護サービスは大きく分けて、訪問介護、通所介護(デイサービス)、入所施設、サービス付き高齢者向け住宅などに分類され、それぞれでM&Aの動向には違いがあります。
訪問介護事業では、地域密着型の小規模事業者が多く、人材確保の課題から大手企業だけではなく、地域の中小事業者による買収も活発化しています。複数の拠点をもつ事業所の場合、一部の事業所だけを切り出す場合もあります。また、M&Aの実行時には「従業員の一人当たりの1日に訪問数」や「訪問先の利用者の現状」などを注力して確認されます。
通所介護施設は、利用者数が安定し、収益性によっては、買収ニーズがある分野です。特に同業からのニーズが多いことも特徴的です。ただし、通所介護施設は競合がひしめく領域であり、利用者の取り合いなど厳しい領域であることから、「集客力の有無(サービスの特徴など)」「地域の競合状況」などをM&Aの実行時に確認をされます。
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は、初期投資が大きいものの長期的な収益が見込めるため、不動産事業者や投資ファンドからの注目を集めています。よって、「利回り」の観点が強く確認される点が特徴的です。
特別養護老人ホームは、社会福祉法人の運営が中心です。社会福祉法人そのものは株式会社と異なり「売却」が出来ません。その為、事業承継を目的とした法人間の統合も実際に行われてきています。
このように、各サービス形態の特性に応じて、M&Aの目的や買い手の属性が大きく異なっているため、売却を検討する際は自社の事業形態に応じた戦略が必要です。
介護業界の現状と課題

日本の介護業界は今、大きな転換期を迎えています。
上記でも触れた通り、超高齢社会を迎えた日本では、介護サービスへの需要が年々高まる一方で、業界全体が構造的な問題を抱えています。
最も深刻なのは慢性的な人材不足で、有効求人倍率は全産業平均の3倍以上となっており、質の高いサービス提供が困難になっています。
厚生労働省の推計によれば、2026年度には約25万人の介護人材が不足すると見込まれており、2040年度には57万人の介護人材不足となる予想です。この人材確保が業界最大の課題となっていることは明白です。
また、介護事業所の経営者の高齢化も進行しており、事業承継の準備が整わないまま廃業を検討するケースが増加しています。
経営面では、主に以下のような課題が顕在化しています。
- 介護報酬改定による収益性の低下
- 人件費上昇による利益圧迫
- 施設・設備の老朽化対応
- 法令遵守体制の強化に伴うコスト増
これらの課題に対応するため、M&Aや事業承継を通じた経営基盤の強化が有効な選択肢となっています。
規模の拡大により、効率的な経営資源の配分や人材確保が可能になり、持続可能な事業運営が実現できます。
高齢化社会による市場拡大
日本は世界に類を見ない速度で高齢化が進んでおり、内閣府が発表している「令和6年版 高齢社会白書」によると、2023年10月時点で、日本の総人口約1億2,435万人の中で65歳以上の高齢者が約3,623万人を占めており、高齢化率は29.13%と過去最高を記録しています。
また、今後も高齢化率は高まっていく予想となっており、現状止められない状況です。
介護サービスの需要は、今後も右肩上がりで増加し、市場規模は2030年には約20兆円に到達する見込みです。
特に注目すべきは以下の成長分野です。
- 訪問介護・訪問看護サービス
- デイサービスなどの通所介護
- サービス付き高齢者向け住宅
- 認知症対応型グループホーム
こうした市場拡大を背景に、大手企業や異業種からの新規参入も活発化しており、M&Aを通じた事業拡大の動きが加速しています。
既存の介護事業者にとっては、この成長市場で事業価値を高める絶好の機会であり、売却や提携による企業価値向上が期待できる環境が整っています。
深刻化する人材不足
介護業界では、有効求人倍率が全産業平均の3倍以上という状況が続いており、慢性的な人手不足が経営を圧迫しています。
2023年時点で介護職の有効求人倍率は3.9倍に達しており、1人の求職者を4社近くで奪い合う状態です。
この人材不足の背景には以下の要因があります。
- 少子高齢化による労働人口の減少
- 介護職の身体的・精神的負担の大きさ
- 他業種と比較して低い賃金水準
- 夜勤や不規則な勤務体制による離職率の高さ
小規模事業者では採用コストの負担が重く、十分な人員を確保できないケースが増えています。
M&Aによる事業統合は、採用力の強化や人材育成という点で有効な解決策となっています。
大手グループ傘下に入ることで、組織的な採用活動や研修体制の充実が可能になり、人材確保の課題を解消できる事例が増えています。
低い給与水準と労働条件
常勤で働く介護職員の平均月給は令和6年の調査にて約33万8,200円と、全産業平均と比較して約6万円低い水準にとどまっています。
また、訪問介護員やホームヘルパーでは、非正規雇用の割合が高く、平均時給は1,200円程度となっており、他産業での時給の方が高い例も多く散見されます。
こうした給与水準の低さに加えて、労働環境の課題も深刻です。
- 夜勤を含む不規則なシフト勤務
- 入浴介助や移乗介助による身体的負担
- 認知症対応などの精神的ストレス
- 記録業務などの事務作業の増加
小規模事業者では処遇改善加算を十分に活用できず、待遇改善が進まないケースも見られます。
M&Aによる経営統合は、給与水準の引き上げや福利厚生の充実を実現する有効な手段となっています。
大手グループの傘下に入ることで、処遇改善加算の適切な活用や、キャリアパスの整備が可能になり、離職率の低下につながっている事例が増えています。
制度の複雑さと財政負担
介護保険制度は3年ごとの報酬改定や頻繁な法改正により、経営者は常に最新の制度変更への対応を迫られています。
加算要件の変更や新たな基準の導入など、制度の複雑化は小規模事業者にとって大きな負担となっています。
特に深刻なのが財政面の課題です。
介護保険の給付費は年々増加し、2023年度には約12兆円程度の規模となりました。
国の財政圧迫を背景に、介護報酬の引き上げは抑制傾向にあり、事業者の収益確保が難しくなっています。
こうした状況下で、単独経営を続けることはリスクが高く、M&Aによる経営基盤の強化が現実的な選択肢として注目されています。
大手事業者との統合により、制度対応の専門人材の確保やスケールメリットを活かした効率的な運営が可能になります。
事業承継を検討する経営者にとって、M&Aは従業員の雇用を守りながら事業を継続させる有効な手段となっています。
食材費、光熱費の高騰
近年のインフレーションの影響により、介護施設の運営コストが大幅に上昇しています。
特に入所系施設では、利用者の食事提供に必要な食材費が20〜30%も高騰し、施設運営の大きな負担となっています。
電気代やガス代などの光熱費も同様に値上がりが続いており、24時間体制で空調や照明を維持する必要がある介護施設にとって、この負担は極めて深刻です。
<コスト増加の主な要因>
- 原材料価格の国際的な高騰
- 円安による輸入コストの増加
- エネルギー価格の上昇
- 物流費の値上がり
介護報酬は公定価格で決められているため、これらのコスト増を利用料金に転嫁することが困難です。
結果として利益率が圧迫され、特に小規模事業者は経営難に直面しています。
こうした状況下で、経営基盤の強化や効率化を目的としたM&Aが増加しており、規模の経済を活かした仕入れコスト削減や運営効率化が求められています。
サービスの質の格差
介護・福祉業界では、事業者間でのサービス品質に大きな差が生じています。
大手企業が運営する施設では、充実した研修制度や最新の設備投資により高品質なケアを提供できる一方、小規模事業者では人材不足や資金難から十分なサービスを維持できないケースが増えています。
この格差は以下のような要因によって生まれています。
- 従業員の教育・研修体制の違い
- 設備投資や施設の充実度の差
- 人材確保のための待遇面での差
- 経営ノウハウや管理体制の格差
M&Aを通じた事業統合は、この格差を解消する有効な手段となっています。
大手企業の傘下に入ることで、小規模事業者も充実した研修制度や資金力を活用でき、サービス品質の向上が期待できます。
利用者にとっても、より安定した質の高いケアを受けられるメリットがあります。
事業承継の問題
介護・福祉施設の経営者は、創業者が高齢化している一方で、親族内に後継者が見つからないケースが増加しています。
介護業界特有の労働集約型ビジネスモデルや24時間体制の運営負担から、子どもや親族が事業を引き継ぐことに消極的な傾向が見られます。
従業員への承継も選択肢の一つですが、介護事業では施設・設備投資に多額の資金が必要となるため、資金力のある後継者候補がいることはほぼありません。また、従業員と経営者で求められる能力は異なりますが、その能力を持ち得る従業員がいないことも、選択が出来ない要因となっています。
結果として、優良な事業であっても廃業を選択せざるを得ない状況に追い込まれる経営者が増えています。
こうした背景から、M&Aによる第三者への事業承継が現実的な解決策として注目されています。
適切な買い手企業に事業を引き継ぐことで、利用者へのサービス継続、従業員の雇用維持、そして経営者の引退後の生活資金確保という三つの課題を同時に解決できる可能性があります。ただし、検討をするタイミングを逸することも多く、遅かったことから解決出来ない場合も多いです。
「もっと早くに相談をしておけばよかった」という例は、弊社へのご相談でも5件中3件程度はありますので、早めに検討を開始されることをお勧め致します。
介護・福祉業界M&Aのメリット

介護・福祉分野でのM&Aには、売却側と買収側の双方に大きなメリットがあります。
売却側にとっては、後継者不在問題の解決が最大のメリットです。
経営者の高齢化が進む中、親族や従業員に後継者がいない場合でも、M&Aを通じて事業を存続させることができます。
また、従業員の雇用を守りながら、これまで築いてきた利用者との信頼関係や取引先との関係を維持できる点も重要です。
創業者は適正な対価を得ることで、老後の生活資金を確保できます。
一方、買収側は既存の施設や利用者基盤を即座に獲得できるため、ゼロからの立ち上げに比べて時間とコストを大幅に削減できます。
人材不足が深刻な業界において、経験豊富なスタッフをそのまま引き継げることも非常に大きな魅力です。
さらに、複数施設の運営によるスケールメリットや、地域でのシェア拡大といった事業成長も期待できます。
売却側のメリット
介護事業を売却する側には、複数の重要なメリットが存在します。
その中で最も大きな利点は、後継者不在の問題を解決できることです。経営者の高齢化が進み、親族や従業員に適切な後継者がいない場合でも、M&Aによって事業の継続が可能になります。
また、従業員の雇用維持も重要なポイントです。長年働いてきたスタッフの雇用を守りながら、利用者との信頼関係も引き継ぐことができます。
さらに、既存の取引先との関係も継続が可能です。例えば、高齢者施設の運営を行っている場合、食材や日用品に関する卸企業や、空調や水道などのインフラ関連の保守を依頼している会社など、多数の地域企業との連携を行っていますが、こうした取引先との関係も維持できます。
経済的なメリットとしては、事業売却によって適正な対価を得られることが挙げられます。これにより、創業者は老後の生活資金を確保でき、新たな事業への投資も可能になります。
さらに、経営の重圧から解放されることで、精神的な負担が軽減されます。特に、経営者の個人保証を変更できることは、過去に譲渡をされた経営者の方々の共通の重要なポイントになっています。
人材不足や制度改正への対応といった経営課題を考える必要がなくなることが、セカンドライフの充実に繋がります。
事業承継の選択肢としてM&Aを活用することで、廃業を避けて地域の介護サービスを含めた経済圏を維持できる点も、社会的に大きな意義があります。
買収側のメリット
介護・福祉施設の買収には、新規参入や事業拡大を目指す企業にとって多くの利点があります。
最大のメリットは、既存の事業基盤をそのまま活用できる点です。
施設の建設や行政への許認可申請には膨大な時間とコストがかかりますが、買収によってこれらのプロセスを省略し、即座に事業を開始できます。
特に以下のような資産を獲得できる点が魅力です。
- 稼働中の施設設備と立地
- 既存の利用者との契約関係
- 経験豊富な介護スタッフ
- 地域における信頼とブランド
- 介護保険事業者としての指定
また、複数施設を運営することでスケールメリットによるコスト削減も実現できます。
本部機能の集約や、備品・設備の一括購入、人材の効率的な配置などにより、収益性の向上が期待できます。
地域での市場シェア拡大により、競争力強化にもつながります。
介護・福祉業界M&Aのデメリットと注意点

介護・福祉分野でのM&Aは多くのメリットがある一方で、慎重に検討すべきリスクや課題も存在します。
まず、介護事業は人材依存度が高いため、M&A後に職員の離職が発生すると、サービス品質の低下や事業継続が困難になる可能性があります。
特に、経営者や管理者との信頼関係で勤務している職員が多い場合、経営権の移転により人材流出のリスクが高まります。
また、利用者やその家族との信頼関係の維持も重要な課題です。
経営者が変わることで不安を感じる利用者が契約を解除するケースもあり、収益に直接影響します。
法規制への対応も注意が必要です。
介護保険法や各種指定基準への適合が求められ、買収後に法令違反が発覚すると指定取消しのリスクもあります。
さらに、簿外債務や労務問題、施設の老朽化など、買収後に予期しない費用が発生する可能性もあるため、徹底したデューデリジェンスが不可欠です。
売却側のデメリット
介護事業を売却する際には、経営者側にもいくつかの不利益が生じる可能性があります。
まず、希望する売却価格で買い手が見つからないケースです。
介護事業は利益率が低く、施設の老朽化や人材不足などの課題があると、想定よりも低い評価額になることも少なくありません。特に、地方の事業者は「市場規模の拡大」が見込めるかどうかも重要な検討ポイントになります。
次に、従業員や利用者への影響です。
長年築いてきた信頼関係が損なわれ、売却後に職員の離職や利用者の契約解除が発生するリスクがあります。
特に地域密着型の事業では、経営者の人柄や理念に共感して利用している方も多く、経営者交代に対する抵抗感が強い傾向にあります。実際に、M&Aの実行後に「従業員が辞める」という例も珍しくなく、この点について買手側から保証を求められるケースもあります。
また、競業避止義務により一定期間同業での事業活動が制限される場合が多いです。
売却後も介護業界で新事業を考えている経営者にとっては、大きな制約となりますが、契約の交渉時に調整も可能です。
さらに、売却プロセスが長期化すると、情報漏洩により従業員の士気低下や取引先との関係悪化を招く恐れもあるため、慎重な対応が求められます。
買収側のデメリット
介護・福祉事業の買収を検討する際には、買い手側特有のリスクを十分に理解しておく必要があります。
まず、買収資金の負担が大きく、想定以上のコストが発生するケースがあります。
施設の改修費用や設備投資、統合に伴うシステム導入費用などが想定外に膨らむ可能性があります。
また、職員の引き継ぎがうまくいかず、離職に繋がるリスクも深刻です。
介護現場では職員と利用者の信頼関係が重要であり、経営統合後に職員が離職すると、利用者の満足度低下や契約解除につながります。
既存事業との統合プロセスも課題となります。
企業文化や運営方針の違いから、現場が混乱し、スムーズな事業運営ができないケースもあります。実際に経営管理を行っているシステムを統合するには、数カ月かかるケースも多く、システム統合が出来なかったケースもあります。
さらに、買収前に把握できなかった簿外債務や法令違反が発覚するリスクもあり、適切なデューデリジェンスを実施しても完全には防げない場合があります。この点は、交渉時の契約書の調整での対応が求められます。
介護・福祉業界M&Aの価格相場

介護・福祉施設の売却を検討する際、多くの経営者が最も気になるのが取引価格の相場です。
一般的に、介護事業のM&A価格は年間営業利益の2〜5倍が目安とされています。
ただし、施設の種類や規模、立地条件、利用者数、職員の定着率などによって大きく変動します。また、売上を超えるM&A価格となることも非常に稀になっています。
具体的な価格帯としては、以下のような傾向があります。
- 小規模デイサービス:数百万円〜1億円
- 訪問介護事業所:数百万円〜1.5億円
- グループホーム:1億円〜5億円
- 有料老人ホーム:1億円〜10億円以上
近年は介護報酬改定の影響や人材確保の難易度が価格に反映される傾向にあります。
特に優秀な人材が定着している施設や、安定した利用者を確保している事業所は高評価を受けやすくなっています。
正確な企業価値を把握するには、専門家による詳細な財務分析と事業評価が不可欠です。
企業価値の算定方法
介護・福祉事業の売買において、適正な企業価値を算定することは取引成功の鍵となります。
一般的な算定方法には、以下の3つのアプローチがあります。
- インカムアプローチ:将来の収益力を基準に評価する方法で、DCF法(割引キャッシュフロー法)が代表的です。
- マーケットアプローチ:類似する上場企業や過去の取引事例と比較して評価する方法です。
- コストアプローチ:純資産額を基準に評価する時価純資産法などがあります。
介護業界では、業態によって用いられる評価方法はことなります。介護業界においても、中小企業のM&Aで最も多く用いられるコストアプローチとインカムアプローチをミックスした評価方法が多く採用される傾向にあります。
ただし、施設の設備状況や人材の質、地域における競争環境、主軸となる事業内容なども加味して総合的に判断されます。
専門のM&Aアドバイザーに依頼することで、より精緻な企業価値評価が可能となり、適正価格での取引実現につながります。
介護サービス別の相場
介護事業の買収価格は、提供するサービスの種類によって大きく異なります。
サービス形態ごとに収益構造や必要な設備、人員配置が異なるため、評価基準も変わってきます。
主なサービス別の価格相場は以下の通りです。
| サービス種別 | 価格相場 | 特徴 |
|---|---|---|
| 訪問介護 | 1,000万〜8,000万円 | 設備投資が少なく参入しやすい |
| デイサービス | 5,000万〜1.5億円 | 施設規模により価格差が大きい |
| グループホーム | 1億〜3億円 | 建物・土地の有無が影響 |
| 特別養護老人ホーム | 5億円以上 | 公的性格が強く取引事例少 |
| 有料老人ホーム | 3億〜15億円 | 入居率と稼働率が評価ポイント |
上表から分かることとしては、訪問系サービスは比較的低価格で取引される一方、施設系サービスは不動産を含むため高額になる傾向があります。
また、介護報酬の加算取得状況や利用者の状況、地域の需要動向も価格に大きく影響します。
介護・福祉業界M&Aを成功させるポイント

介護・福祉分野でのM&A取引を成功に導くには、業界特有の評価基準や法規制への理解が不可欠です。
一般的な企業買収とは異なり、介護事業では施設の立地条件や稼働率、介護報酬の改定動向、人口動態などが企業価値の評価額に大きく影響します。
また、介護保険制度に基づく事業のため、行政への届出や許認可の引継ぎ手続きも重要なポイントとなります。
成功の鍵となる要素には以下のようなものがあります。
- 利用者や家族への丁寧な説明と信頼関係の維持
- 従業員の雇用継続と処遇改善による人材流出の防止
- デューデリジェンスでの労務管理や施設基準の精査
- 適切な企業価値算定と交渉戦略の立案
特に人材確保と利用者サービスの継続性は、取引後の事業運営を左右する最重要課題です。
この課題に対して、実際にサポートを行った事例を参考にしつつ、専門家のサポートを受けながら、計画的に進めることが成功への近道となります。
事前準備で重要なこと
M&Aを円滑に進めるためには、取引開始前の準備段階で自社の現状を正確に把握することが重要なポイントの一つとなります。
売却を検討する場合、まず自社の財務状況や事業の強み・弱みを客観的に分析しましょう。
弊社ではこの分析次第で、M&Aそのものを進めるられる状態なのか、またはM&Aの実行が現状では難しい状態なのかが判明すると考えています。それぞれの状態に合わせて準備を整えることが目的達成には必要不可欠です。
また、決算書類や契約書類、労務関連資料などを整理し、いつでも開示できる状態にしておくことは必須です。そもそも、上記の分析においても資料が網羅的かつすぐに確認出来る状態でなければ、分析が出来ませんので、かならず整えて頂く必要があります。
次に、買収を検討する側も、以下の点を明確にしておく必要があります。
- 買収の目的と戦略(エリア拡大、サービス多角化など)
- 投資可能な予算と資金調達方法
- 統合後の事業運営体制とシナジー創出計画
さらに、専門家チームの選定も重要な準備項目です。
M&Aアドバイザー、会計士、弁護士など、介護業界及び介護業界のM&Aの実務経験のある専門家と早期に連携体制を構築することで、初期検討から交渉段階などのトラブルを未然に防ぐことができます。
準備の質が取引全体の成否及びそもそもの目的達成の成否を左右するため、時間をかけて丁寧に進めることが求められます。
適切な相手先の選定方法
M&Aの成否を左右する最も重要な要素の一つが、買い手企業または売り手企業の選定です。
介護・福祉業界では、事業理念や運営方針の相性が重要です。例えば、「売上数字にコミットし、より多くの利用者にサービス提供をしたい」ことを大事に考える買い手企業が、「数よりも一人ひとりの介助を丁寧に進める」ことを大事に考える売り主企業では、利用者に対する思想が異なる為、M&Aを実行しても相性が良くなく、実行後に後悔する可能性が高いことは感じていただけると想います。
利用者へのケアの質を維持するためには、同じ価値観を持つ相手を選ぶことが不可欠です。
選定の際には以下のポイントを確認しましょう。
- 経営理念やサービス品質への考え方
- 従業員の雇用条件や処遇に関する方針
- 地域での評判や実績
- 財務基盤の安定性と成長性
- 過去のM&A実績とその後の運営状況
特に売却を検討されている経営者にとっては、利用者と従業員の幸せを守れる相手かどうかを優先事項に掲げている方が多くいらっしゃいます。
M&A仲介会社や専門アドバイザーを活用し、いくつかの候補先を事前に比較検討することで、最適なパートナーを見つけることに繋がります。
介護・福祉業界M&Aの成功事例

介護・福祉分野では、実際に多くの企業がM&Aを通じて事業の拡大や経営課題の解決に成功しています。
大手介護事業者が地域密着型の小規模施設を買収し、ブランド力と運営ノウハウを活かして収益性を大幅に改善した事例や、後継者不在で廃業を検討していた社会福祉法人が、理念を共有できる企業に事業を譲渡することで利用者サービスの継続を実現した事例など、さまざまなケースが存在します。
また、異業種からの参入組が既存の介護施設を取得し、ITシステムの導入や業務効率化によって職員の負担を軽減しながら利用者満足度を向上させた成功例もあります。
これらの事例に共通するのは、買収側と売却側双方の目的が明確で、統合後のビジョンが共有されていた点です。
本セクションでは、具体的な成功事例を複数紹介し、それぞれの取引で何が成功要因となったのか、どのような課題をどう乗り越えたのかを詳しく解説していきます。
大手企業による買収事例
大手介護事業者による中小施設の買収は、スケールメリットと経営ノウハウの活用によって双方にメリットをもたらす代表的なパターンです。
例えば、全国展開する介護大手が地域で実績のある有料老人ホームを買収し、本部の管理体制や人材育成プログラムを導入することで、サービス品質の標準化と収益性の向上を同時に実現したケースがあります。
売却側にとっては、後継者不在の問題が解決し、従業員の雇用が守られ、さらに大手のブランド力によって利用者からの信頼も高まるというメリットがありました。
買収側は既存の利用者基盤と地域での信頼関係をそのまま引き継ぐことができ、新規出店と比較して初期投資を抑えながら迅速にエリア展開を進めることが可能になりました。
こうした大手による買収では、統合後のシナジー効果をどう最大化するかが成功の鍵となります。
中小規模の成約事例
介護・福祉業界では、従業員数10名から50名規模の施設や事業所のM&A事例が近年増加しています。
ある地方都市のデイサービス事業者は、経営者の高齢化により後継者不在の状態でしたが、隣接県で介護事業を展開する企業に譲渡することで、利用者へのサービス継続と従業員の雇用維持を実現しました。
取引金額は数千万円規模で、譲渡価格は年間営業利益の3~5倍程度が相場となっています。
別の事例では、訪問介護ステーションを運営する法人が、地域でのブランド力と利用者基盤を評価され、大手介護グループの傘下に入りました。
統合後は本部からの経営支援や採用支援を受けることで、慢性的な人材不足の課題を解消し、サービスエリアの拡大にも成功しています。
こうした中小規模の成約では、地域での信頼関係や利用者との関係性が重要な評価ポイントとなり、売却後も創業者が一定期間顧問として関与するケースが多く見られます。
当社のM&A仲介実績(お客様インタビュー)
事例1(売主様):ご利用者様や社員、家族を守ろうとした結果、会社を適切な人に託すことを決断しました。

介護業界未経験だったオーナー様が、父の相続を機に当業界に参入。ただ、“このままではご利用者様や社員を守れなくなるかもしれない”という不安から、会社の譲渡を決意。M&Aの検討を進める中で、キーマンであったスタッフにも開示し、相談しながら最適な進め方を検討し、無事に株式譲渡を進めることが出来ました。
事例2(買主様):訪問介護サービスの幅が広がると考え、事業を譲り受けることにしました。

社会福祉法人を運営する法人にて、訪問介護サービスを展開する株式会社より事業譲渡を実行致しました。M&Aの実行を進めるには、まずはオーナー様の希望をしっかりとヒアリングし、出来ること・調整が必要なことをしっかりと明示することで、実行後の「不満」に繋がらないように注力をされました。実際にM&Aを行ったあとには、利用者の方々にも詳細をご説明し、ほぼ全ての契約を引き継ぐことも出来、今ではオーナー様も法人の中でキーマンとしてご活躍されていらっしゃいます。
介護・福祉業界M&Aでよくあるご質問
Q:従業員の方々にいつのタイミングでM&Aについて話をすればよいでしょうか?また、事前に相談をしてもよいものでしょうか?
A:一般的には「M&Aを完了したタイミング」での開示が良いと考えます。理由は、「まだ決まっていない中で話したところで、従業員様は「どうなるんだろう?」という不安が募るだけになるから」です。また、事前に相談をすることも一般的ではありません。ただ、事業や組織の状況によっては、弊社の事例にもあるように、相談をする場合もあります。その際の伝え方などはサポート致します。
Q:赤字ですが、売却検討は可能でしょうか?
A:はい、可能です。実際に赤字企業の譲渡のサポートも行っております。ただ、あくまでも「お相手があってのお話」となりますので、赤字の状況など、お客様の状況によってM&Aの可能性は変わって参ります。
その他、お客様から頂いたご質問もまとめておりますので、ご覧いただけますと幸いです。もしご不明点がございましたら、いつでもお問い合わせくださいませ。
まとめ
ここまで説明したきた通り、介護・福祉業界では高齢化と人材不足を背景に、M&Aや事業承継のニーズが急速に高まっています。
経営者の高齢化や後継者不在といった課題に対し、M&Aは有効な解決策として注目されており、適切な相手先との統合により事業の継続と発展が可能となります。
介護業界のM&Aでは、利用者との関係性やスタッフの雇用維持、地域における信頼といった独自の確認ポイントがあり、同業界のM&Aに特化した知見が成功の鍵を握ります。
売却を検討される方は従業員や利用者の未来を守り、買収を検討される方は事業拡大の好機を得ることができます。
M&Aや事業承継についてお悩みの方、企業価値の向上を目指す方は、ぜひ弊社までお気軽にご相談ください。
貴社の状況に応じた最適なソリューションをご提案いたします。